日本のワインのルーツを訊ねて 取材報告  (by えつこ)

山梨県勝沼町  メルシャン勝沼ワイナリー
        マンズ勝沼ワイナリー

第 9 話

 こは種子島宇宙開発事業団のロケット発射場。工場の中に宇宙ロケットの胴体が並んでいます・・・
   
 というのは冗談で、ここはワイナリーの中の除梗機や圧搾機が置いてある場所です。それらの機械の隣にまるで宇宙開発事業団のH−1ロケットの2段目の胴体と見間違えそうなシルバーの大型の機械があります。
 この写真でみるとロケットと言うよりも、まるでビールの2リットルや3リットルの容器が横になっているようにも見えます。
 実はこの機械の正体は特殊な発酵タンクなのです。通常のワインは前に説明しました白い巨大な縦型の発酵タンクで発酵させますが、このタンクは新酒(ヌーヴォー)ワインを発酵させるときに使用するもので、ある特殊な方法で使用されるそうです。
 その方法とは、ボジョレー・ヌーヴォーを一躍有名にした仕込方法と同じ「マセラシオン・カルボニック」という方法です。
 それまでは、フランスの片田舎の地酒でしかなかったボジョレー地方のワインは決して世間から注目を浴びることはありませんでした。この土地の気候や土壌に適しているガメイ種というぶどうは、ボルドーやブルゴーニュなどの有名なワイン銘醸地では高級ワインの原料としては使用されません。また、フランスは硬水のために水道水は飲用としてはあまり適しておらず、水代わりに飲むと言っては極端ですが、そんな素朴な地方の一ワインでしかありませんでした。しかし、この「マセラシオン・カルボニック」という仕込方法を取り入れ、そして世界中でその新酒の解禁日を統一した戦略が功を奏して、新酒と言ったらボジョレーヌーヴォーというイメージが定着したのです。
 新酒ワインは普通のワインに比べて、新鮮で軽くてフルーティーな感じを出すように特別に造ります。

 通常赤ワインは果実を徐梗、破砕した後に発酵を行い、赤ワイン特有の色とタンニンを抽出しますが、マセラシオンカルボニックは徐梗も破砕もせず、二酸化炭素を充満させた容器の中に数日間ブドウを入れておき、その後、徐梗と破砕をし、発酵させる方法です。
 この方法ですとぶどうをつぶさずに、容器の下の方のぶどうだけが自重で少しだけつぶれて果汁が出て発酵が始まります。そこに炭酸ガスを入れて発酵が全体に始まります。
 しかし、まだ見た目には普通のブドウの実の状態で、食べると少しアルコールと炭酸ガスがシュワっとする感じでその後、徐梗と破砕をし、さらに発酵させます。この方法ですと赤ワインの色は良く出ますが渋味があまり出ないために早飲みタイプのフレッシュな赤ワインに適しているのです。
 そうするとちょっとバナナっぽい香りが出てくるのだそうです。でも今までの私のつたない経験では赤ワインでバナナっぽい香りなんて経験したことがなく今後の課題にしておきたいと思います。
 次は製造工程最後の濾過の場所です。
 ここは瓶詰め工場の1階です。澄んだきれいなワインにするためには発酵が終わり、赤ワインなら皮や種などを取り除いた状態のものを遠心分離器にかけて酵母を除去し、卵白やゼラチンなどを使って澱を吸着除去したり、マイナス1〜2℃まで冷却し、澱や澱になりやすい成分を除去して最後に濾過をしてワインを製品にしますが、これがその濾過器です。
    
 フエルトみたいな感じの適度な厚さの布が何十枚も重ねられていて機械に取り付けられています。このフィルターを通すことで澄んだワインとなり熟成に移ります。これで一応の製造工程見学は終了し、次は上の階の瓶詰め工場見学になります。時刻はもうすぐお昼になります。
    …第10話につづく…

第8話にもどる        第10話にすすむ