初めての酒蔵見学 取材報告2    【by Etuko】

栃尾市 越銘醸株式会社

第 11 話

 麹造りが終わると次はいよいよ仕込です。日本酒の仕込はまずお酒の元となる「酒母」を造ることから始まります。「酒母」は文字通りお酒の母ということで、これがうまくいかないと今までの苦労が水の泡となってしまいます。
 材料は麹、水そして酵母の培養液などです。タンクに3つの材料を入れるとまず麹菌の力でお米のデンプンを糖に変えることになります。次に酵母がその糖をアルコールに変える働きをするのですが、1つのタンクの中ではそれらの変化が同時に行われていきます。
 それは醸造学的には世界でも非常に難易度の高い並行複発酵と呼ばれています。
 つまりデンプンが糖に、糖がアルコールに変化する複発酵を同時(並行)に行うということでこのように呼ばれているのです。
 微生物の知識など無かった昔から、経験的に発達してきたこの醸造方法は日本の文化が生んだとてもすばらしい技術なのです。
 日本酒の仕込みにおいて何故酒母を最初に造るのかというと、発酵に必要なものは大きくいうとお米と麹と酵母です。
 麹は麹室で大量に準備することが出来ますが、酵母はそうはいきません。アルコール発酵に使う元気の良い優良な酵母を酒母の中で大量に培養するために必要なのです。
 現代では速醸酒母が開発されて従来は21日以上かかっていた期間が16日程度に短縮されるようになりました。
 ここで、せっかく酵母のお話しになったついでに、その酵母の代表的なものの特徴をご説明致しましょう。
 協会7号酵母。下面酵母。低温でも良く発酵し、香りは華やかで高い。
 協会9号酵母。低温でも良く発酵する酵母。発酵終盤まで発酵力が強い。香気が華やかで、吟醸酵母として優れている。
 協会10号酵母。東北生まれの低温発酵適性。酸が少なく、淡麗な芳香のある吟醸酒や純米酒に向く。
 ベースとしてはこの3種類だと思います。これらを元にして改良されてそれぞれの特徴を合わせ持つ酵母や泡なし酵母などもあります。
 さて、ここ越銘醸では酵母は協会系酵母を使用し、お酒に合わせてその種類を使い分けています。
 ここでは一般酒の場合は主に協会7号酵母を使用し、腰の強いしっかりとしたお酒になるように工夫しています。

 また、吟醸酒などの高級酒の場合は協会9号や10号などの酵母を使うことでフルーティーな香りを醸し出すのだそうです。
 このように酵母にはそれぞれ特性があります。また、その酵母にはどんなお米が良いか、造り方はどうか、自分たちの求めるお酒とはどういうものなのかと酒質設計をした上でここのお酒は生まれてくるのです。
 せっかく酒母の説明をしたのですから、長くなりついでにその後の仕込の様子も説明しちゃいます。
 酒母が出来上がるといよいよ仕込です。酒母を仕込み用の大きなタンクに移します。
 1日目、初添え。酒母、麹、水、そして蒸し米(掛け米)をタンクに入れて発酵を促す。
 2日目、踊り。仕込を休んで酵母の増殖を待つ。
 3日目、仲添え。さらに麹と蒸し米(掛け米)、水を加える。
 4日目、留添え。さらに麹と蒸し米(掛け米)、水を加える。
 このように3段階にわたって仕込をするので「3段仕込み」と呼ばれています。
 そして発酵初期はタンク内の発酵が均一に進むように、時々「櫂(かい)入れ」という作業を行います。
 「櫂(かい)」とは、先の方に小さな板が付いている長い棒のことで、櫂入れとは、その櫂を使ってタンク内のもろみをやさしく混ぜることです。
 数人でその作業を行いますが、皆の櫂を入れるタイミングを合わせ、そしてその作業をする時間も考えなければなりません。
 そこで、いちいち号令をかけなくても良く、また、時計で計らなくても良い方法として「酒造り唄」が取り入れられたのです。
 皆で一緒に唄を歌って櫂を動かすタイミングを合わせます。そして、唄の長さが時計代わりという一石二鳥の方法なのです。ウーン、これは文化ですね。
 さて、酵母のお話しからちょっと脱線してしまいましたが説明に戻ります。
 この「三段仕込み」という方法は、いうなれば一度に大量の原料を加えると酵母がおぼれるというか原料に比較して酵母の数が少なく安定的な発酵が出来なくなるために、徐々に増やして常に酵母の力を最大限に利用するための原料の加え方という事になります。
 仕込んだ後は時々櫂入れをして十分に発酵が進むように手助けをしながら、雑菌の繁殖と温度管理に気を付けてお酒になるのを待つのです。
    …第12話につづく…

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