初めての酒造り体験 取材報告  (by えつこ)

新潟県長岡市  吉乃川

第 18 話

 午前中に運び込んでから約2時間半が経過しています。
 平石さんがその様子を見せてあげると自動製麹機のフタに付いている、腕が1本入る程度の確認窓から手を突っ込み、ひとつかみの麹を取り出して見せてくれました。
 どうですか?先程よりずいぶん麹菌の繁殖が進んでいるでしょう?
 たしかに。所々に白い産毛のような麹菌が繁殖しはじめています。
 麹米を造るときは、温度が高すぎるとお米の表面だけに麹菌が繁殖するのでダメ。適度に米の内部まで麹菌が入った方が発酵力が強く、良いとされているのです。
 また、湿度もどちらかというと乾燥させた方がこちらの思い描く麹にすることができるので送風によって湿度を調整しているのです。
 いかがでしたでしょうか。これで麹室の作業は全て終わり。
 もし、自動製麹機がなかったら、これだけ大量の麹を造ることは非常に大変な仕事だったわけですね。
 でも、今だに高級酒の麹は全て手造りということで技術の維持に務める努力も怠らないようにしているそうです。
 製造工程で、まだ見ていないのが「搾り」の工程です。次はそちらにご案内します。
 連れて行かれたのは昌和蔵の1階です。藪田式の搾り機が3台と昔ながらの槽を使った搾り機が並んでいます。
 藪田式の搾り機は大量のもろみを搾るときに使う大型の搾り機です。
 一方、槽を使った搾り機は少ない量のお酒を搾るときに使いますが、どちらかというと槽式の搾り機の方が手仕事としての搾りとなるために微妙な加減が出来やすいのではないかと思われます。
 昨日、ちょうどこの槽式搾り機で大吟醸酒を搾ったということですが、今日は藪田式の機械で厳選辛口用のもろみを搾っていました。
      
搾り機には一時的にお酒をためる亀口が近くに設置してあります。そこからヒシャクですくって味見です。

 厳選辛口用のしぼりたて生原酒の口当たりは、ほのかに甘さを感じますがスッキリしていてフルーティーな香りが漂ってきます。
 皆で利き酒をしていると隣の亀口から別のしぼりたて生原酒をきき猪口に汲んで持ってきてくれました。こちらも味見。
 こちらは新潟の新しいお米で「越いぶき」という種類で食べてもおいしいお米で造られた生原酒です。
 どれどれ。
まず、香りはそれほど立たず奥ゆかしい感じ。味は辛い。でもほのかな甘味が感じられて、まだ味が隠れているような感じです。
 皆で利き酒をしているときに、大吟醸などの高級酒は、未だにこの槽で搾りますと槽の説明がありました。お酒を小さな酒袋に入れて口を下に折り込んで敷き詰め、何段にも重ねて置きます。最初は「あらばしり」「中取り」と自然にお酒がほとばしり出てきて、「責め」も最後は縦に重ねるようにして搾ります。しかし、所詮は万力の力です。もろみの半分以上は粕として残ってしまい、お酒としてはもろみの半分以下しか取ることは出来ないということだそうです。
 これで製造工程は全て網羅しました。残りは出来たお酒を瓶詰めにする工程です。
 敷地内の別の建物に移動です。外に出ると午前中は晴れていたのですが今は雪が舞っています。道理で、冷えるはずですね。
 ほとんどの仕事を麹室という暖かいところで作業をしていたものですから寒さが身にしみてきます。
 こんな時は麹室の仕事が暖かくて良いですねと話したら、決してそんなことはありません。場合によってはサウナで作業をするようなものですから脱水症状になったりして良いことばかりではありませんと言われました。
 いよいよ製品化工場の「上組蔵」の建物に到着しました。寒いのですぐに中に入りました。
 この建物は鉄骨5階建ての建物で1階では空瓶の洗浄作業が行われています。新潟で回収する一升瓶などの回収瓶は雨ざらしが多いために、金属のさびがついていることがあり、通常の洗浄の前に薬品で、そのさびを落とすことが必要なのですと言われました。
    …第19話につづく…

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