日本のワインのルーツを訊ねて 取材報告  (by えつこ)

山梨県勝沼町  メルシャン勝沼ワイナリー
        マンズ勝沼ワイナリー

第 6 話

 続いて帳面には精密画のように醸造器具の手書きの絵が書かれています。
   
 「龍憲用録草書」と題されたこの帳面は薄い和紙のような紙のために裏のページの画が透けて見えますが、そのどれも非常に細かく描写されていて驚いてしまいました。
 当時は欧米列強の植民地となるか、または国力を充実させてそれを防ぐか、日本にとってまさに大事の時。 この伝習如何によっては日本の運命を左右しかねないという気概に満ちあふれていたでしょう。2人に課せられた使命の重大さとその意義の重さは計り知れないものがあったでしょう。この精密な画を見て思わず悲壮感さえ感じてしまいました。それにしてもさすがに当時の外国に派遣される人だけに、すばらしい人達によってワインという文化が伝えられたんだなあと感じ入ってしまいました。
 フロアーの反対側には貯蔵樽が置いてあります。
   
 そしてその中の最も大きな樽に記念の展示物があります。
 昭和52年秋。高野家の蔵から現存する日本最古のワインが見つかったのです。
   
 左側の2本は高野正誠がつくったワインで赤、白1本ずつありました。
 ちょっと写真が暗くて見えにくいためパンフレットの写真をご覧頂きます。
 保存状態が良かったために中身は健全な状態だそうです。

 これはまさしく歴史的な遺産といっても良いでしょう。ビンの頭に付いているものは松ヤニを固めてコルクからの空気の出入りを防ぐためのもので、“チャン”と呼ばれているのだそうです。こんなところにも本場フランスで学んだ高野正誠の知識のほどがうかがえます。なお、このワインは立てたまま保存してありますが、これは老化したコルクがこれ以上ワインと接しない方がワインの保全上望ましいからだそうです。
 そして右は2人がフランスで学んだ地のクロ・サン・ソフィーという1976年産のワインです。100年の隔たりはありますがその土地が結びつけた歴史の証拠なのです。これはすごい。これが先駆者達の情熱と秘められた努力の歴史なのですね。大感動の私でした。
 続いて下に降りて見たのが除梗器のレプリカです。
   
 次にここは中2階の下のフロアーです。大型の木製の樽がいくつも並んでいます。
   
 そうです。ここは現在でも貯蔵庫として使われているのです。この半地下の貯蔵庫は壁が石で出来ていて場所柄地下水が豊富で、その地下水の冷却効果を利用して夏でも涼しく保存できるのだそうです。
 そういえば岩の原葡萄園の1号蔵も地下水で冷却することにより品質の良いワインづくりを目指したのでしたね。
 新潟の川上善兵衛がワインづくりを始めたのが明治23年ですから、やはりここが日本のワインのルーツということになりますね。
 ちょっとした興味本位から訊ねてきた日本のワイン発祥の地。思わぬ先駆者の苦労を知った旅になりました。
 お酒って歴史と人の物語なんだなぁと改めて思いました。
      …第7話につづく…

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